大判例

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東京高等裁判所 平成元年(う)625号 判決

本店所在地

東京都八王子市中町二番三号

株式会社ツカモト

右代表者代表取締役 塚本元市

右会社に対する法人税法違反被告事件について、平成元年四月一九日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人会社から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官豊嶋秀直出席の上審理をし、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人岩崎公名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用するが、所論は、要するに、被告人会社を罰金四〇〇〇万円に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である、というのである。

そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討するに、本件は、被告人会社(以下、被告会社という。)の代表者である塚本元市(原審における共同被告人、以下、塚本という。)が、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、土地売却収入の一部を除外すると共に保険料を水増し計上するなどの不正な方法により所得を秘匿した上、被告会社の昭和六一年一〇月一日から同六二年九月三〇日までの事業年度における実際所得金額が五億七三五〇万三六七一円で、課税土地譲渡利益金額が一億四五〇一万五〇〇〇円であったのにかかわらず、その所得金額が二億七〇三八万九五二八円で、課税土地譲渡利益金額が二五八二万六〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一億一一九一万七四〇〇円である旨虚偽の申告をし、正規の法人税額との差額一億五一一四万五二〇〇円を免れた、いう事案である。逋脱額が相当高額であり、逋脱率もかなり高率(約五七・四パーセント)であること、塚本は、被告会社所有の土地を共立住販株式会社(代表者は古園強)に売却するに際し、被告会社の経営が将来悪化した場合に備えて、その代金七億二八二八万円のうち三億円を裏金として貯えることとして、そのために内容虚偽の土地売買契約書を作成するなどし、また、賃貸している建物の火災保険料の水増し計上によって得た金員は役員の間で分配したり、役員の旅行費用にあてたりしていたものであって(この保険料の水増し計上は、必ずしも、この年度だけのものではなかったことが窺われる。)、動機に酌むべきものは乏しく、犯情は悪質であること等に鑑みると、被告会社の責任は重いものといわなければならない。

所論は、土地の売却に関する裏金の件を言い出したのは共立住販株式会社の古園強や取引を仲介した株式会社守屋建設の守屋峰雄であり、塚本がこの三億円を秘匿して脱税を図ったのも右古園から示唆されたためである、というのであるが、仮にそのとおりとしても、塚本は、顧問格の山岸勇一らと相談した際、同人らから脱税を思い止まるように強く忠告されたのに、結局、裏金備蓄の誘惑に負けてしまったというものであるから、本件脱税の悪質性においてさしたる差異はないものというべきである。

そうすると、被告会社においては、修正申告の上、既に、本税、重加算税、延滞税、これに伴う地方税を納付済であること(なお、これらの付帯税等の合計額に原判決の罰金額を加えると、多大の金額に達することは所論指摘のとおりとしても、それは自業自得というほかない。)、塚本のワンマン体制を改めるなどして再犯なきを期していること等諸般の情状を被告会社のため十分に考慮しても、被告会社を罰金四〇〇〇万円(逋脱税額の約二六・五パーセントにあたる。)に処した原判決の量刑はまことにやむを得ないところであって、重過ぎて不当であるとは思料されない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺澤榮 裁判官 堀内信明 裁判官 新田誠志)

○控訴趣意書

被告人 株式会社ツカモト

(代表取締役 塚本元市)

右の者に対する法人税法違反被告事件について、控訴の趣意は左記のとおりである。

平成元年七月一二日

右弁護人弁護士 岩崎公

東京高等裁判所 第一刑事部

原審は、被告人を罰金四〇〇〇万円に処する旨の判決をしたが、左記の理由により刑の量定が不当であるので原判決の破棄を求める。

一 被告人が本件土地(八王子市横山町一三九番二)を共立住販株式会社(代表取締役古園強)に売却するに至った経緯。

1 これを要するに、被告人は本件土地を売らねばならない理由も必要もなかったのに反し、古園強が右土地を絶対取得したい一心から被告人に売買代金の一部を裏金にし、脱税が発覚させない旨執拗な詐術的言辞をもって被告人に売却を承諾させたものである。

すなわち、被告人会社は主に自社ビルを西武デパート八王子店に賃貸して営業をしている会社で、いわゆる他の不動産業者のように不動産の仲介、売買を業としているものではない。

被告人は本件宅地一一七・七九平方メートルを昭和五九年一一月購入し、以来駐車場として賃貸していたが、将来同所にビルなどを建てて西武百貨店に賃貸しようと考えていたものであり、さらに右土地は西多摩郡瑞穂町に所有していた土地が道路用地として買収され、その代替資産の先行取得として税務上圧縮記帳の手続きをしたばかりで、売れば多額の税金が課せられるなどの事情から全くこれを売却する意思もなければ、売却の必要性もなかったのである。

2 一方共立住販株式会社代表者古園強は不動産業者として、どうしても本件土地を被告人会社から買取る必要があった。

それは、本件土地の両隣に所在した芦川ウインド所有地と住宅工営の所有地が購入できる見込ができ、丁度その頃の常磐商事が同土地を欲しがっており、右商事へ転売の話がまとまっていたからである(古園供述)。

それには被告人会社から本件土地を買い入れなければ土地の利用上商品価値がなく常磐商事へ転売することができないからである。

このため古園氏としては、是が非でもこれを入手するため不動産仲介業者守屋峰雄(株式会社守屋建設代表者)を仲介人として再三に亘り売却を要請してきた。しかし被告人は売却の意思がないので即座にこれを拒わっていた。

しかし、古園としては、被告人会社の土地を地上げしなければ常磐商事に売れないばかりか、当時土地狂乱時代といわれ、土地の値段は暴騰を続けるばかりで、いくら高く地上げしてもさらに高値で転売できるという時勢であった。これは公知の事実である。

かかる時勢から古園はいくら高くても被告人所有の土地が手に入れば十分商売になるとの考えから執拗に詐術や甘言をもって売却の攻勢をかけ、被告人はこれに根負けして売り渡すことになったものである。

結局本件土地は芦川ウインド及び住宅工営の土地とともに常磐商事が買受け、同社はビルを建て西武デデパートへ賃貸している。被告人は右賃貸するのを事前に知っていたら売却はしなかった。

二 売買代金の一部三億円を隠蔽した行為は古園の指示によるもので、計画的犯行ではない。

古園が仲介業者を介して被告人代表者塚本に売却の決心をさせる手口として、

(1) 土地の買値を七億円という、高値を付けて被告人の売る気をそそったこと。

(2) さらに、その内三億円を出さず、この金を古園の裏金で払うので絶対に税務署にバレないし、被告人に迷惑をかけないなど欺したこと。

(3) 仲介手数料は正規の料金より安い二パーセントにして経費をかけないようにみせかけたこと。

などの条件を提示して被告人を誘引したものである。

被告人は、守屋・古園の前述のような攻勢につい心が動揺し、また過去、会社倒産の苦い経験から将来、万一会社の経営状態が悪化した場合に備え裏金をたくわえ会社の健全な運営を考えて売却の決心をしたのである。

古園強の東京国税局収税官吏に対する供述調書では「三億円の裏金の要求は塚本から出た」と供述しているが、これは虚偽の供述である。

なぜなら前述のとおり、被告人は土地を売る理由も必要性もなかったこと、古園は常磐商事に転売する必要上どうしても本件土地を欲しかったから裏金の話をださなければ被告人が売買を承諾しないと考えた。それでなければ被告人が再三にわたり売却を拒否し続けてきたにも拘ず、これを諦らめず喰い下がって売買を成立させ、直ちに、これを常磐商事に転売している事実、さらに売買代金決済後、被告人は裏金三億円を隠すのに苦悩し、古園、守屋を被告会社に呼んで並木顕誓こと山岸勇一を交えて裏金三億円を表に出して正規の申告をすべく話し合った際にも「古園個人の裏金であるから絶対迷惑をかけない。むしろ今これを出されては困る」とまで言ってる事実からも明白である。

かように本件土地の売買は古園が本件土地を欲しさに前記のような三億円の裏金を餌に売却させたものである。しかも古園らは被告人に三億円の脱税を教唆し、これをしても絶対に発覚しない旨安心させる言辞を弄した。このようなことから被告人も古園の言辞を信用し虚偽の申告をしたもので売買の当初から計画的に行ったものではなく、偶発的にこのような犯行に及んだものである。

三 三億円を過少申告した経緯

被告人は昭和六一年一二月二三日共立住販株式会社から残金代金を受領し、昭和六二年一一月被告会社の法人税確定申告をしなければならないところ、古園から三億円を裏金として申告しなくても絶対大丈夫と言われたものの、やはりその心は晴れず、躊躇しているうちに申告期限を経過してしまった。その間、並木こと山岸に相談し、再度古園を呼んで裏取引は取りやめ、真実の売買である七億余円による申告をしようと話したところ、古園は「今更七億円の取引と申告されては自分のほうが困る」等と言われた。そこまで言われると被告人も心の迷いが生じ、昭和六三年一月四日になって過少申告をしたのである。

四 原判決の罰金四〇〇〇万円はあまりにも過重な量刑であり、これを大幅に軽減すべきものと思料する。

被告人が罰金四〇〇〇万円に処せられると、この罰金額を含め重加算税その他附帯税等総額一億九一二三万七四〇〇円を追加納付しなければならなくなり、被告人の前記犯罪の原因動機を考慮すると右罰金額は重すぎる処罰である。

すなわち、原判決の「正規の法人税額二億六三〇六万二六〇〇円に対し申告税額一億一一九一万四七〇〇円との差額一億五一一四万五二〇〇円(別紙2脱税額計算書)を免れた。」との摘示は争いないところである。

1 ところで被告人会社は同族会社に該当し(法人税法第二条第一〇号)、同法第六六条の規定により算出される前記法人税額の他に同法第六七条に規定する同族会社の特別税率(留保金課税)が適用される。その結果、当該事業年度における課税留保金額は四四九二万円となり、当初申告額より一四五九万二〇〇〇円増加する(別紙修正所得に対する税額計算書No.1の9欄以下)。したがって法人税の総額も二億六八三〇万六〇〇円となり、その差額である一億五三三三万四〇〇〇円を昭和六三年七月二六日追加納付した(同計算書No.1の21欄)。

2 修正所得金額については、法人税額の他に地方税法の規定により、

(A) 法人事業税四〇〇一万〇九〇〇円(同計算書No.2の29欄)、

(B) 法人都民税九二〇万円(右同書33欄)、

(C) 法人市民税一八八六万円(右同書37欄)、

以上、(A)、(B)、(C)合計六八〇七万〇九〇〇円が追加税額となり、被告人は昭和六三年七月二六日納付した。

3 以上、1、2の本税額は、更に重加算税、延滞税等の附帯税が付加され、その総額は七八二五万一七〇〇円の多額である(別紙追加納付税額等集計表No.3の38欄)。被告はすでに右金額を納付した。このような課税はいわば罰金刑に相当するものである。

4 更にこれらの附帯税および罰金四〇〇〇万円は、法人税法第三八条により、所得金額の計算において損金不算入(必要経費とならない)の支出となり、被告会社は附帯税額および罰金額に対して法人税・法人事業税・法人都民税・法人市民税の最高税率の合計六二・二八六パーセントを乗じた金額の課税を受けることになる(別紙集計表39欄)。

すなわち、(A)附帯税七八二五万一七〇〇円に対する損金不算入による追加税額は四八〇七万一三〇〇円、(B)原判決の罰金四〇〇〇万円およびこれに対する損金不算入による追加税額二四九一万四四〇〇円、以上(A)、(B)合計一億九一二三万七四〇〇円を別途納税することになる。

かように、罰金四〇〇〇万円を科せられることがいかに重い刑であるかが明らかである。

5 以上要約すると、被告人が本件事件において金三億〇三一一万四一四三円の所得金額を申告しなかったことにより、法人税等の追加税額二億二一四〇万四九〇〇円(別紙集計表No.338欄差引追加税額合計額)とこれに対する同附帯税額等金一億九一二三万七四〇〇円合計四億一二六四万二三〇〇円を支払わなければならなくなった。

仮に、修正申告税額(正規の法人税額)三億九三八六万〇九〇〇円に対する差引追加税額二億二一四〇万四九〇〇円(別紙集計表No.338合計欄)を除外したとしても、(ニ)附帯税合計金七八二五万一七〇〇円、(ヘ)同金額に対する損金不算入追加分税額四八〇七万一三〇〇円、(ト)罰金四〇〇〇万円とこれの損金不算入追加分六四九一万四四〇〇円(右集計表)以上合計((ニ)、(ヘ)、(ト))一億九一二三万七四〇〇円という多大の金額を追加納付することになり、自業自得とはいえ、あまりにも過酷な経済的負担を科せられることになる。

三 ひるがえって、本件土地譲渡に関し、被告人会社の利得の有無を見ると、後記計算書のとおり被告人は金三五〇六万七八〇〇円の損失を受け、その上、七億二八二八万円の土地を失ってしまった。

被告人は右園強らの執拗な詐術的売却の要請がなければ売らなかったのであり、誠に悔やまれるところである。一方古園(共立住販株式会社)はこのような方法で三億二三二一万円の莫大な利益を得ており(別紙東京速報)何らの処罰を受けていないのは不公平である。

土地譲渡に対する税金等の計算書

〈省略〉

四 なお、被告会社は本件納税のため昭和六三年七月二六日青梅信用金庫より三億二〇〇〇万円を年利五・二%で借り入れ、毎月返済中であり、本件事件で罰金を科せられると更に借り入れをしなければならず、その金利負担等大変な苦痛を負わされることになる。

〈省略〉

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